浜辺の寄りに道路があって、道路のつたいに防波堤があって、防波堤の終端にのっぺらぼうがいた。
さも当たり前のように、顔のない人はそこにいた。 その情景にとてもマッチしていた。
磯の匂いと穏やかな小波の調べが、のっぺらぼうを優雅に見せている。
白いつば広の帽子がはためいたので、そこにいるのが乙女であると気づいた。
赤の編み模様の肩の丸いシャツと、帽子に似合ったサイズのスカート。
その顔には笑みが似合いそうなものなのに、表情というものが存在できないのっぺらぼうの恨めしさ。
僕は少しだけ奇異な気を興して、顔のない乙女に話しかけようと思う。
「お元気ですか? 太陽が眩しいですね。 きっとのっぺらぼうでいるのは大変でしょう?」
それに対して乙女はなんと言うだろうか。 やはり口を利かないだろうか。
心が締め付けられるほどに悲しくなってきたが、乙女がその場を動くでもなく、空に顔を向けたその姿勢が天使を待っているようで、僕の後ろにものっぺらぼうは迫っているのではないかと不安にかられて後ろを振り向いた。
海に面したこぢんまりした駐車場だ。 白の業務用軽自動車が一台最初から停まっている。
視界を戻してもまだのっぺらぼうは立っていた。 少し腰を防波堤によりかからせていた。