宇宙猫はグレイの隣りにいる。 いつの間にか仲良くなったようだ。
グレイは宇宙猫を助手にしたがっている。 しかし宇宙猫でいいのだろうか。
宇宙猫は宇宙に住む猫だ。 宇宙人になりそこねた猫とは訳が違い、宇宙にいるだけでその実ただの猫なのだ。 宇宙でも生きていられるし、勿論ただの猫よりはよほど優秀な能力を持ち合わせてはいるが、本来は猫のバリエーションに過ぎない。
グレイは宇宙猫と出会った。 東京の歓楽街の裏路地で。
うっすら汚れていたがひと目でわかったのは、宇宙猫の瞳は透き通る紫水晶のようだからだ。
グレイはためらうことなく宇宙猫に助手になってくれるように頼んだ。
「なぜならば、貴兄は私が憧れるものの一部の特性を持っているからだ。私は宇宙で生きることはできないけれど、宇宙人になりたかったのだ。」
グレイはその宇宙猫に壮大な実験計画について語ってみせた。 まず手始めに宇宙船を手に入れて宇宙へ旅立つというのだ。
「まさに貴兄の手を借りるのが一番の助力になるのだ。貴兄の猫の手であれば、私は成功を確信して宇宙へ迎えるというものだ。」
グレイの話している間にも宇宙猫はヒゲの手入れをしていた。 猫には髭があるが、グレイはもうヒゲを半分失っていたからこれには多少の苛立ちがあった。
「貴兄はそのうちヒゲが静電気でやられるのかもしれんぞ。」
グレイの僻み口も知らん顔で、宇宙猫は伸びをして全く星のない曇り空を見据えた。 宇宙へ帰ろうとしているのだということがグレイには分かった。
「そう急ぐんではない。」
グレイは宇宙猫のしっぽにしがみつき、宇宙猫が中へ浮かんだ拍子にしっぽは真一文字になった。 そこそこの勢いがあり、おかげでしっぽは棒のようになって曲がらなくなってしまった。
「それ言わんこっちゃない。」
宇宙猫がこのときばかりは涙を浮かべて恨めしげにグレイを睨んだ。 グレイはこれから一緒にうまくやっていけそうだと思った。
「貴兄のこの素晴らしく真っ直ぐなしっぽに敬意を表して、私は貴兄をドロワと呼ばせてもらうことにしよう。」
グレイにドロワと呼ばれなくてはならなくなった宇宙猫は、意外にも逃げ出そうとすることもなくそこに居座った。 グレイはゴミ溜めの中から白衣を見つけ出して、うまいこと自分のサイズに繕った。
「やはり、一人より二人のほうが心強いじゃないか。」
グレイは一人うなずき、ドロワは長い欠伸をした。