羊のことば

小さく小さく

レセプションとして心

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受容体として心はある。

 

そして心こそがその表出物の源泉たる揺らぎの媒体である。

 

あらゆる表出、表現、表徴は心より出で、心を指示するもっとも効果的な方便となる。

 

心由来の品には最上級の値が付くのだ。誰も買い取れないほどで、しかし誰かは買い取れる程度の値が。

 

レセプションたる心はモナドである。

 

それ事態は変質しない。ただ外界を、心の質に依り変形させて、映し出す。それはすべてを反射するのではなく、一部分だけアレンジしてまた外界へ返す。

 

見よ、それこそが世界の本質だったのだ。

 

我々の受容するものがそもそも反射されたものでないことがない。一番に近くて自分の反射物をしか見ることができない。

 

表されたものについてひとつのポリシーが立ち上がる。それは誰かの所有であることよりむしろ配列であり、配列がなにであるかと言えば、あるポジションからのランドスケープなのだと。

 

作品というものはその表出物を指すよりはむしろ表出者である作者自身を指すのだ。

 

これは中心性の欠如、無に取り込まれた(現実と和解した)形而上学プラトンのコーラ、もしくはもののあはれリバイバルを宣言するものだろうか。

意味と価値って?

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意味が意味することは、価値とは違う、というところから始めたい。

意味は何を意味するだろう。 何に意味があるだろう。 価値は何が価値だろう。 価値が意味するところと、何に価値があるか。

まずは似たところ、価値と意味が同じ文脈で使われることがある。

彼がしたことには価値がある。

彼がしたことには意味がある。

行為に対して、その評価を有価値とするとき、そこには目的と結果の合致が見られる。

行為についてその意味性を認めるとき、行為の目的に対する合致、言い換えれば、行為の有目的性というものが見られる。

インスピレーションで語ると、価値はいかにそれが誰かに(何かに)求められているか、意味はそれが指す対象が存在するか。

価値は力学的であり、意味は存在論的である、とそういう感覚だ。

価値も意味も何かとの関係において在るものではあるが、それらはある意味性そのものであり、つまりは個人の心に最終的に生じるものとして、個人の内に存在する。

意味性は何か現象として外界に存在するものではないとして。

悪魔の存在証明というものがある。或るものが有ることを証明するには一例を証明すれば済むが、或るものが無いことを証明するには、全事象を列挙し切らなければならない。

土台不可能なことを要求される。

これは意味が無いことを証明することの困難さを支持している。 意外なことに、意味のあることを言う方が容易であると言っているのだ。

では意味について何が難しいのだろう。

意味の無いと思われる文面について、それが本当に意味をなさないかを証明することが難しい、ということだ。

底の底から

人生で幾度褒められたでしょうか。

30代までに社会人になってあなたは何度褒められたでしょう。

「やってける」という言葉が、社会人になって、これほど嬉しい言葉になるとは思いませんでした。

送られたその言葉で次に向かうというのは、数少ない勲章を胸に留め戦地へ向かう、うら若き将校の気持ちです。

なんのためにやってきましたか。

誰の喜びとして君は働いてきましたか。

誰のためでもない、自分の為として働くしかなかった、都会に一人の男でした。

そうでしかなかった。

そうでしかあれなかった。

自分は一人だと思っていた中でその言葉は非常に強かった。

私はまだ私で有れるのかもしれないと思えた。

この世に生きる意味はないと思う中で、こうした言葉に出会えることは、予想だにしない不条理でした。

虚無の世界観とは相容れない、等身大の希望でした。

それが、もっと大きな挫折によって打ち砕かれようと、その希望は、身の丈ほどの希望は、あまりにリアルで、それゆえに強靭で、その一人の存在の中にぴったりで、きっと壊れることもなく、一枚岩として、彼の社会人人生において、そびえ立ち続けるのです。

無名の小さなハゲの男の話でもいいでしょう。

生きるのに理由は要らなくても、生き続けるには理由が必要です。

それが人間です。

そうでしょう。

宇宙猫との邂逅

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宇宙猫はグレイの隣りにいる。 いつの間にか仲良くなったようだ。

グレイは宇宙猫を助手にしたがっている。 しかし宇宙猫でいいのだろうか。

宇宙猫は宇宙に住む猫だ。 宇宙人になりそこねた猫とは訳が違い、宇宙にいるだけでその実ただの猫なのだ。 宇宙でも生きていられるし、勿論ただの猫よりはよほど優秀な能力を持ち合わせてはいるが、本来は猫のバリエーションに過ぎない。

グレイは宇宙猫と出会った。 東京の歓楽街の裏路地で。

うっすら汚れていたがひと目でわかったのは、宇宙猫の瞳は透き通る紫水晶のようだからだ。

グレイはためらうことなく宇宙猫に助手になってくれるように頼んだ。

「なぜならば、貴兄は私が憧れるものの一部の特性を持っているからだ。私は宇宙で生きることはできないけれど、宇宙人になりたかったのだ。」

グレイはその宇宙猫に壮大な実験計画について語ってみせた。 まず手始めに宇宙船を手に入れて宇宙へ旅立つというのだ。

「まさに貴兄の手を借りるのが一番の助力になるのだ。貴兄の猫の手であれば、私は成功を確信して宇宙へ迎えるというものだ。」

グレイの話している間にも宇宙猫はヒゲの手入れをしていた。 猫には髭があるが、グレイはもうヒゲを半分失っていたからこれには多少の苛立ちがあった。

「貴兄はそのうちヒゲが静電気でやられるのかもしれんぞ。」

グレイの僻み口も知らん顔で、宇宙猫は伸びをして全く星のない曇り空を見据えた。 宇宙へ帰ろうとしているのだということがグレイには分かった。

「そう急ぐんではない。」

グレイは宇宙猫のしっぽにしがみつき、宇宙猫が中へ浮かんだ拍子にしっぽは真一文字になった。 そこそこの勢いがあり、おかげでしっぽは棒のようになって曲がらなくなってしまった。

「それ言わんこっちゃない。」

宇宙猫がこのときばかりは涙を浮かべて恨めしげにグレイを睨んだ。 グレイはこれから一緒にうまくやっていけそうだと思った。

「貴兄のこの素晴らしく真っ直ぐなしっぽに敬意を表して、私は貴兄をドロワと呼ばせてもらうことにしよう。」

グレイにドロワと呼ばれなくてはならなくなった宇宙猫は、意外にも逃げ出そうとすることもなくそこに居座った。 グレイはゴミ溜めの中から白衣を見つけ出して、うまいこと自分のサイズに繕った。

「やはり、一人より二人のほうが心強いじゃないか。」

グレイは一人うなずき、ドロワは長い欠伸をした。

虚舟

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心の空虚を虚舟。

虚ろな舟の上に乗る人はいたか。

舟が虚ろである。

桟橋に留め置かれ、波に揺られるだけの舟も虚舟だ。

このたびは虚ろ移ろい現し世に舟を停めなむ心無し彼に

その日を連れない人に思い傾けて過ごす気持ちを虚舟に見立てて詠む。

一興

宇宙人になりそこねた猫

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この老境の猫は、そろそろエイリアンになる頃合いだと思い立って、すっかり用意を整えてから事にあたったのだが、どうも大元から間違えてしまっていたらしく猫でもなくエイリアンでもない、なんだかわからない存在になってしまった。

これは当の老猫にとっては大変不名誉なことで、端から見る者にとってはなんとも可笑し味のある出で立ちだった。

(不本意だ。こんな身なりで、私は晩年の集大成を過ごさねばならんのか。)

不平は言えども誰の耳にも届かない。

そもそもどうして老い猫はエイリアンなぞなろうとしたかだが、そのところからしてすでに滑稽な意味合いを含んではいた。

このしわくちゃキャットにとってはエイリアンは不死の象徴であって、中でも飛び抜けて由緒ある不死の具現であったらしいのだ。

どこで聞き知ったか、エイリアンは地球を侵略するもの、地球の王者である人間を震え上がらせるものであり、地球の王者とはすなわち命に限りある者の代表で、それを食い尽くすものは生の境界を超えたる者と、そういう風に合点したらしい。

エイリアンはきっと火星に住んでいて、頭上には光、肌は空と同じ色をしていたに違いないと、猫は理想に胸膨らました若年を過ごした。

このように老年に至り、ようやく永らくの夢を叶えるときが来たと、魔法の宿るごみ捨て場に住まう金歯の人間に知恵を借りたのは今年の六月頃。 人間は口周りの長く灰色の毛から不思議な果物を取り出して、老猫の口の中に詰め込み、おまけとして提灯の中にあった電球を狭い額に挿した。

「おお古猫よ。化け猫になろうと企むよりかは遥かに立派な心がけじゃ。わしはささやかにでもお主の力になれたなら大層嬉しい。」

余計なことなのに、金歯をはめたホームレスはあわれ目を輝かせた老猫に自分の歯ブラシでブラッシングしてやった。

ほどなくまばゆい光を放ち老猫は現在あるような身体を見事手に入れたのだった。

(騙されたと主張したとしても私に過はないはずだ。その証拠に、私はちっとも宇宙に飛び立てないじゃないか。)

ふてくされてはいるが、この猫の称えるべきところは、もうすでに自らに振り掛かった境遇を受け入れつつあることだった。 猫は頭上に垂れ下がるこの光る物体がどういうものか色々と試してみたくてたまらなくなっていた。

(検証のためのラボを建てなければならないだろうな。それから私の研究を手伝う助手を見つけてこなければ。)

前途多難な老猫は私たちには幸運なことに楽天的だったのだ。 不死を理想とするほどにこの猫はあくまでも生に執着していた。

私は彼をグレイと名付けてもう少し観察してみることにしたい。

明月の日

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永遠の秘密を手に入れた。 私は今日この日を明月の日と呼ぶことにしよう。

今晩は土砂降りの雨なのだが。 雷鳴すら轟く荒雲の垂れ込める夜なのだが。

まさにそんな日こそが明月の日なのだ。

いつか君にその秘密について話せる日が来たらと思う。

永遠の秘密を話すことができる日が〈いつか〉来るのかって?

その疑問はもっともだ、友よ。 私はパラドックスが大好きで、パラドックスほど私を行動に駆り立てるものはないのだ。 そう、私は行動がしたいのだ。

その秘密のために、秘密を打ち明けようと努力するために、手記をしたためることにしたのだ。

永遠の秘密を私はこれからいくつもの変奏で呼ぶことだろう。 だから、よく気をつけて聴いてくれ。 それとすぐに気がつけるように。

私はあえてそのヴァリアント同士を関連付けようとはしないつもりだ。

第一に私はそれを〈23〉という数字で表すことにする。 これは、いつかこの秘密を明かすときに何を言わんとしていたかを証すためだ。

秘密を持つ、そのことが何よりずっと大切だということ教えてくれた。

この世のすべての秘密をいずれ知ることを望む者は、またここを訪れるといい。 永遠に明かしてはならない秘密を、いつか証すその日まで、いつまでも。